人が少なくなった深夜も近い会社。
私が個別のブースで作業していると、後輩の健太がひょっこり顔を出した。
私のこと、探してたな?
「どうしたの、健太。彼女となんかあった?」
「そうなんですよーーー!聞いてください先輩!」
健太は彼女と喧嘩したみたいで、どうしたらいいかの相談だった。
健太の話があらかた決着すると、私に話をふってきた。
「涼真さんとは最近どうなんです?」
「うーん…やっぱりまだモヤモヤする」
「何してくれたら許せるようになると思います?」
「涼真の家にさ、二股相手の愛ちゃんと一緒に買った植物があるんだよね。二人でお揃いで買ったやつ。それと、愛ちゃんとは遠距離だったから、連泊しやすいようにベッド買い替えてて…それ捨てて欲しいんだけどさ。全然捨てる気配ないんだよね」
「は?!なんでそんなん早く捨てないんですか?僕だったら言われた瞬間に捨てますよ?窓から投げ捨てます」
健太は眉間に皺を寄せて考え込む。
「え、何で処分しないんだろ。全然分かんないな…」
「なんかね、生き物だからかわいそうって言う」
「あー…。そういうことなら何となく分かります」
「でも、好きな人が嫌って言うなら、僕なら目の届かないところにやりますけどね」
「そうだよね、普通そうするよね!でもそうしてくれないってことは、それくらいの好きってことなのかなって」
私の答えが腑に落ちなかったようで、健太はしばし考えを巡らせる。
「うーん…、そうではない気がするんですけどねぇ」
少しの沈黙のあと、口を開いた。
「とりあえず“辛い”っていうのをもう一回訴えてみたらどうですか?」
「え、どういうこと?」
「その様子だと、先輩が辛いっていうのに気付いてないかも知れないですよ。“捨てて欲しい“ってしか言ってないんですよね?僕なら”辛い”って言って様子を見てみます。好きな人が辛いっていうのを認識した上でどういう行動に出るのか、興味あります」
健太の分析は驚くほど腑に落ちた。
涼真は人の気持ちに疎い。”捨てて欲しい“と“辛い”が結びついていないのかも知れない。
「その上で捨ててくれなかったら、今後を考えます。自分の好きな人が辛いって言ってるのに、何もしてくれないなら、そういう人と今後一緒にいるのはきつくないですか?」
「そうだよねぇ…」
なおも煮え切らない私に健太は語気を強めた。
「僕は先輩の味方だから思うのかもしれないですけど。涼真さんはキープして、他探すのもありかなって。先輩の年齢が分かってて、すぐに捨てないって、先輩の年齢を軽くみているというか・・・。大事にしてくれない相手にこっちが誠意を尽くす必要ないと思うんです」
さらに畳み掛ける。
「いいですか先輩!大富豪で例えると、今先輩の持ってるカードで一番強いのが8、これが涼真さん。でも山札にはJ・Q・K・1・2があるんですよ。手札に加えようとしてないだけで。見てる中で一番強いからこれかなって思うけど、8だから踏み切れない」
健太の例え話は分かりやすい。
確かにそうなのかもしれない。
涼真が“8”って例えも言い得て妙だった。
「J・Q・K・1・2探していきましょ!」
「そうだね笑。8切りした方がいい展開になるかもしれないし笑」
一気に流れを変える可能性を秘めている、大富豪のワイルドカード。
「ちなみに、健太の彼女は大富豪で言うと何なの?」
「ジョーカー。引いたときは7だと思ってたらジョーカーでした」
「それもいい例えだね笑」
7に擬態しているジョーカー。
健太の彼女のキャラにぴったり。
(健太の彼女は気の強い小悪魔系)
「ありがと。結局私の相談の方が長くなっちゃったね」
「いいんですよ。助け合っていきましょう!」
結局、深夜の仕事は1ミリも進まなかった。
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こんにちは。恋に悩めるOL・みなみです。
涼真の浮気が発覚して、やり直すことを決めたはずなのに、そう簡単に信じ切ることはできません。
そんな私の相談に乗ってくれるようになった後輩の健太。
「恋愛相談は異性にしない」が私の基本ルールだけど、ついつい話してしまう…。
さて、上でも書いたように、涼真は人の気持ちにめっぽう疎いんです。
(その分、こっちが「あ、ちょっと失礼だったかな?」って発言にも全然気にしないから一長一短なんだけど笑)
ちなみに、この人の気持ちを察する力を、私は「国語力」って表現してて、結構いい指標だと思ってるんですよね。
国語力を測るには「現代文って得意だった?」と聞きます笑。
現代文の点数が低い人は、総じて国語力が低いです。
今回の登場人物の国語力は
私>健太>涼真
なので、健太がうまく私と涼真の考えの差を埋めてくれました。
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