約束を守れないなら、さようなら

3月31日。
涼真から来月のシフトが送られてこない。
それが私を苛立たせていた。

私は涼真とよりを戻すときに、いくつか約束をしていた。
そのうちの一つが「シフトを出す」だった。

涼真はその場では了承したものの、よりを戻してから2ヶ月間、一度も自分からはシフトを送ってこなかった。

「俺とみなみはライバル会社じゃん。一部とはいえ手の内を明かすのは嫌だ」

というのが涼真の主張だったが

「それなら私はよりを戻さなかった」

と突っぱね「シフトを出す」で決着がついた…はずだった。

今回は、その決着がついて最初の月末。
もうとっくに来月のシフトは出ているはずだった。
またシフトを出さないつもりだろうか。

「これらの約束はシビアに守ってほしい。これが破られたら、きっともうやっていけないと思うから」

こちらは真剣に訴えたつもりだった。
やはり涼真は自分に都合の良いことしか、聞く耳を持たないのだろう。
またこうやって、しらばっくれて誤魔化すんだ。

そういう人間だったんだ。

…もう疲れた。

私の中で何かがプツリと切れた。
突如どうでもいい気持ちに襲われる。

涼真の家にはいまだ愛ちゃんと買った植物があるし、愛ちゃんが連泊するために買ったベッドがある。
その2つは私の恋を少しずつ冷ましていった。

過去に対する清算をする気もない。
未来への信頼を構築するつもりもない。

そんな人とこれ以上一緒にいて、何があるんだろう?
私を大切だと思ってくれない人といたって、こちらが消耗するだけだろう。

私は日付が変わるのを待った。
一応「3月」はあと数時間残っている。

一縷の望みを信じて待ったけど、結局涼真からシフトは届くことはなかった。

「バイバイ」

会話の途中だったけど、スタンプ1個だけ送ってスマホを放り投げた。
さよならだ。

すぐに涼真からの返事が届いた。

「やっぱり行かないことにした!」

それは、直前までの会話の続きだった。
君の近況なんて、もうどうでもいいんだよ。

翌朝も返信する気にはなれなくて既読スルーしていると、また涼真からLINEが届いた。
午前10時。
この時間に涼真からのLINEが入るのは滅多にない。

「4月だけどまだシフト出てないから待ってね」

私の態度で、まずいと思ったのだろうか?
今回もギリギリの状況にならないと動かない涼真にイラつきながらも、返事を返す。

「はーい♡約束守ってくれてありがとう♡
 信頼しても大丈夫なんだなって気持ちになれるよ^^」

関係を壊すのはいつだってできる。
別れたら辛い気持ちになるのは目に見えていた。
だからこうやって、また優しい返事を返してしまう。

午後イチにはシフトが送られてきた。

「更新日ちゃんと見てね!きょうだから!」

更新日なんて自分でどうとでもいじれるでしょ?
って、出かかった嫌味を飲み込む。

涼真が自分から送ってきたことをよしとしよう。

あぁ。まただ。
もやもやが残りながらも、結局許してしまう。

またこうやって涼真を甘やかして、プライドを捨ててしまう自分が情けなくて嫌になる。
好きって気持ちが消えれば楽なのに。

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