誕生日の前の日。
私も涼真も仕事が入っていた。
少し頑張れば会えたんだろうけど、こちらから誘うのはプライドが許さなかった。
夜、布団にもぐってもなかなか寝付けなかった。
思い返せば去年の誕生日は、みじめな気持ちでいっぱいだった。
午後までLINEの1つもなくて、自分から「私、きょう誕生日だよ!」って送った。
当日は涼真の家でお祝いしたもののプレゼントはなし。
「誕生日プレゼント、用意できなかった。ごめん」
顔も見ないで、そんな一言だけで終わらせられたのが虚しくてしょうがなかった。
初めての誕生日でそれはなくない?
何度も何度も出かかったのに、押し殺して笑顔をつくった。
…もうあんなみじめな思いはしたくない。
今年も期待しないでおこう。
期待はすればするだけ、裏切られたときが辛いんだ。
“期待しないでおこう”
そう思わせてしまう涼真と付き合っている意味って、そもそもあるのかな?
そんなことを考えているうちに、日付が変わった。
0時05分。
LINEの着信が鳴る。涼真からだ。
「誕生日おめでとう!きょうの○○(水辺のアクティビティ)、俺たち入れて2組だけだって♪朝から誕生日を満喫できるね」
きちんと覚えていてくれたことに安堵する。
そう、喜びじゃなくて、安堵。
これでいいのだろうか?
自分の中に沸いた感情に引っかかりを感じたけど、それでも、この関係を壊す勇気なんてなかった。
「LINEありがとう♡誕生日一緒に過ごせて嬉しいよ。涼真も寝坊しないようにね!笑。また明日~」
そう返信すると、少しだけ満たされた気持ちで眠りについた。
***
朝、眠い目を擦りながら待ち合わせ場所についた。
程なくして涼真がやってくる。
「誕生日、おめでとう!」
朝一番にそう言ってくれたことが嬉しかった。
「ありがとう♡今日は一日いっぱい遊べるね♡楽しみ♡♡」
2人とも初めてだった水辺のアクティビティ。
お互い運動神経には自信があるから、どっちがうまく乗りこなせるか競争して。
慣れてきたらお互いちょっと海に落としあって。
何度か海に落ちて。笑
そんなことをしてるもんだから、終わったあとはびしょ濡れ。
「寒いね。みなみ先に着替えてきなよ。タオル取ってきてあげる」
私の着替えをいそいそと取ってきて、ドアを先に開けて通してくれる。
甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれる涼真は悪くない。
帰りに寄ったカフェでは涼真が嬉しそうに私の写真を撮る。
カメラに向けて表情をつくってあげると、突然動きを止めて、無表情でじっと私を見つめる涼真。
1年付き合って分かってきた。
これは涼真が「かわいい」って思ってるときの表情だった。
涼真がちゃんと私にハマっているのが分かって、気分がいい。
今年はプレゼントも用意してくれていた。
私が「欲しいなー」って昔言ってたものでおしゃれなのを探してくれたみたい。
「みなみが欲しいって言ってたから、結構探したんだよ!」
「ありがとう♡すっごいおしゃれ〜♡さすがのセンスだね♡毎日使う〜♡♡」
ケーキはすぐ売り切れちゃう有名店のもの。予約しておいてくれたらしい。
食べるときには、誕生日のメロディが流れる凝ったクラッカーが登場。
「みなみ、こういうの好きでしょ?」
だって。
ここ数週間、何件かお店を回っていたのは、これを探していたからなのね。
「涼真が探してたの、これだったのね。結局、どこで売ってたの?」
「○○(店名)。名前わかんなくて、ネットで探せなくってさぁ。でも絶対これでお祝いしたくて…」
「ふふっ。ありがとう!こんなの初めて見たよ〜!嬉しい♡」
手間と時間をかけてくれたんだなって、すぐに分かる。
去年とは、比べものにならないくらい「大事にされてるな」って感じた誕生日。
これまで黒く渦巻いてた感情が、少しだけ消化された気がした。
***
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