めっきり春めいてきたある日のデートの別れ際。
涼真が唐突に話しはじめた。
「もうすぐみなみの誕生日だね!」
そう。もうすぐ、私の誕生日がやってくる。
涼真と祝う2度目の誕生日だ。
「何かしたいことある?本当だったら1泊旅行とかがいいんだろうけど…」
コロナのせいで、涼真が鉄板で持ってる「お誕生日お祝いプラン」は使えないようだ。
ちなみに涼真は最長で2年しか付き合ったことがないので、彼女が変わるたびに同じデートプランを使い回していると予想している。
「せっかく1日一緒にいれるなら、何かイベント的なことしたいな〜」
「アクティビティする?パラグライダーとか、カヤックとかどう??」
「楽しそう!涼真はどっちがしてみたい?」
「俺はいいんだよ。みなみの誕生日なんだから、みなみが好きな方にしよ」
「じゃあカヤック♡」
「どこがいいかな〜?調べて明日電話する。
プレゼントは…みなみはサプライズがいいでしょ?」
「うん!」
「ケーキはどこのがいい?リクエストある?」
「この前、涼真が話してた○○のが食べてみたいな〜♡」
「わかった!すぐ売り切れちゃうから予約しておくよ。
食べたいって言ってたタルトでいい?夜はどこかお店で食べたい?」
「う〜ん…お店も行きたいんだけど、今早く閉まっちゃうから時間的に厳しいかなぁ」
「そうかもね。そしたらデパ地下でちょっと豪華なお惣菜買おうか?」
「うん!」
よりを戻してからの涼真は、私のリクエストを事細かに聞いて叶えようとしてくれる。
そして、私が一度話した“好きなこと”や“好きなもの”は忘れない。
愛されてる…とは思う。
でも、そのたびに「初めからこうだったら良かったのに」とも思ってしまう。
もともと、涼真と2度目の誕生日を祝うつもりはなかった。
ーーーー全ての行事は1度きり。
それで結婚に結びつかなかったら別れよう。
自分の中で、そう決めてスタートさせた関係だった。
1年たって、今はどうだ?
涼真は結婚について真剣に考えていてくれる。
…と思う。
ただ、私が涼真との結婚に踏み切れない。
信じられるのか?信じていいのか?
こんな未来は予想していなかった。
誕生日がくれば、私はまた一つ年をとる。
新しい相手を探すなら早い方がいいのは間違いない。
頭では分かっているのに、涼真と別れるという決断はできなかった。
好きなのか、執着なのか。
もはや自分でもよく分かっていなかった。
「浮気というヒドい仕打ちを受けて、なお好き」
そんな情けない自分を受け入れたくないプライドなのか。
結婚適齢期もタイムリミットに迫っているなか、涼真を手放したくないだけなのか。
もう少し時間が経てば、自然と結論が出るのだろうか?
でも今はその「時間」が惜しい。
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